親御さまの不動産を把握できていますか|所有不動産記録証明制度について
親御さまがお持ちの不動産、どこにあるかお分かりでしょうか
親御さまが亡くなり、相続の手続きを進めようしたとき、こうした心配をされる方も多いのではないでしょうか。
「親の自宅は分かっているけど、それ以外にも土地や建物がなかっただろうか。」
昔、地方に住んでいた頃に買った土地。親戚から譲り受けたものの、その後一度も見に行っていない山林。離れて暮らしていた時期があり、知らないうちに親御さまが取得していた不動産。
こうしたものは、権利証(登記識別情報)や契約書などの書類が見当たらなかったりすると、存在に気づかないまま相続手続きを終えてしまうことがあります。
総務省の「住宅・土地統計調査」によると、人が住んでいない「純粋空き家」の数は2000年の212万戸から2023年には386万戸へと1.8倍以上に増えました。住宅総数に対する純粋空き家の比率は5.9%と過去最高の水準にあります。
国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査」によると、空き家の取得経緯のうち「相続」が57.9%と最も多く、空き家が生じる直接のきっかけの58.3%は所有者が亡くなったことによるものです。
こうした動向からも、「遠方の不動産を相続したことに気づかないまま、不動産が放置されてしまう」という事態が多くの家庭で起こり得る状況になっているといえます。
なぜ今「不動産の把握漏れ」が問題なのか
2024年4月1日から、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記をすることが法律上の義務になりました。
正当な理由なく期限内に登記をしないと、10万円以下の過料の対象になり得ます。
相続登記の義務は「相続によって取得したことを知っている」不動産を前提にした制度です。
しかし一旦遺産分割を終えた後になって不動産の存在が判明した場合、その時点から改めて3年の期限が動き出すことになり、把握が遅れるほど、遺産分割のやり直しなど相続手続き全体が長引き、ご遺族の負担も増えていきます。
こうした手続的負担を軽減するとともに登記漏れを防止する目的で、令和8年2月2日から施行されたのが「所有不動産記録証明制度」です。
所有不動産記録証明制度とは
これまでの不動産登記の記録は、土地や建物ごとに個別に作られており、「ある人が全国のどこにどんな不動産を持っているか」を抽出する仕組みがありませんでした。
所有不動産記録証明制度により、法務局の登記官が、特定の人(亡くなった方を含みます)が所有権の登記名義人として記録されている不動産を全国のデータベースから検索し、一覧にした証明書を交付してくれるようになりました。
<制度の骨子>
| 請求できる人 | 所有権の登記名義人本人、その相続人その他の一般承継人(代理人による請求も可能) |
|---|---|
| 請求先 | 全国どこの法務局・地方法務局(支局・出張所を含む)でも請求可能(書面・郵送・オンライン) |
| 主な必要書類 | 印鑑証明書、本人確認書類。相続人が請求する場合は、亡くなった方との相続関係を証する戸籍謄本や法定相続情報一覧図の写しなど |
| 手数料 | 検索条件1件・証明書1通あたり、書面請求1,600円、オンライン請求(郵送交付)1,500円、オンライン請求(窓口交付)1,470円 |
| 交付までの目安 | 登記所により異なるが、混雑により2週間程度かかる場合がある |
利用する場合の注意点
便利な制度ですが、次の点を理解しておく必要があります。
・対象は「所有権の登記」があるものに限られます。
土地や建物の「表示に関する登記」しかされていない不動産(未登記建物など)は、検索の対象になりません。
・氏名・住所の一致が検索の前提になります。
亡くなった方が結婚や転居で氏名・住所を変えていた場合、登記記録上の古い氏名・住所も検索条件に含めないと、その不動産が結果から漏れる可能性があります。
・該当する不動産がなくても、手数料はかかります。
「該当なし」という証明がされる場合でも、納付した手数料は返還されません。
・古い登記簿(コンピュータ化されていないもの)は検索対象外です。
制度上、完全にすべての不動産を網羅できるわけではないという限界があります。審査中の登記申請など、検索の時点でまだ登記に反映されていない情報は含まれません。
この証明書は不動産を把握するために有力な手がかりとなりますが、すべてを完全に把握することができるとは限らない、という前提で使う必要があります。
ご自分でできること・専門家に任せたほうがよいこと
所有不動産記録証明書の請求書の記入や、法務局への提出そのものは、必要書類さえそろえば、相続人ご自身で行うこともできます。オンラインでの請求も用意されています。
一方で、次のような点は、行政書士にご相談いただくことで負担を軽くできる部分です。
・相続人が誰であるかを確定するための戸籍収集、法定相続情報一覧図の作成代理
・亡くなった方の過去の氏名・住所(旧姓、転居歴など)を戸籍の附票等から洗い出し、検索条件の抜け漏れを防ぐ準備
・判明した不動産を含めた財産目録の作成、遺産分割協議書の作成
不動産の相続登記の申請手続きは司法書士の業務範囲になります。相続財産の評価額によっては相続税の申告が必要になる場合がありますが、その税額の計算や申告手続きは税理士の業務範囲です。
必要に応じて司法書士・税理士と連携し、相談者様の窓口を一本化してお手伝いすることも可能です。
まとめ:不動産の把握漏れを防ぐには
【相続が発生したら】
相続が発生したら、戸籍収集・相続人調査と並行して、所有不動産記録証明制度の利用を検討し、把握していない不動産がないかを確認します。これにより、後から不動産が判明して相続手続きが長引くリスクを減らすことができます。
【相続手続き中】
判明した不動産を含めて財産目録・遺産分割協議書を整え、登記を依頼する場合は司法書士と連携して進めます。相続登記の期限(取得を知った日から3年以内)を意識しながら計画的に進めることが大切です。
【これからへの備え】
これからの備えとして所有している不動産の一覧を整理し、家族と共有しておくことをおすすめします。
あわせて、遺言で不動産の承継先を明確にしておく、家族信託や任意後見を検討しておくといった対策も、ご家族の負担を軽くすることにつながります。
ご相談について
「親の不動産をすべて把握できているか不安」「何から手をつければよいか分からない」という方は、お一人で抱え込まず、まずはご相談ください。
当事務所では、相続人調査・相続財産調査・戸籍収集・法定相続情報一覧図の作成・財産目録および遺産分割協議書の作成を通じて、相続手続き全体を整理するお手伝いをしています。
まずは無料相談にて、現在の状況をお聞かせください。
親御様が大切な判断を行うことが難しくなってきたら|成年後見でできること・できないこと
「親の口座からお金が下ろせない」「実家が売れない」
「親が高齢になり、物忘れが目立つようになってきた。」
「施設の費用を親の預金から払おうとしたら、銀行で手続きが止まってしまった。」
「空き家になった実家を売って介護費用にあてたいのに、「ご本人の意思確認ができないため契約できません」と言われてしまった。」
こうした出来事は特別なことではありません。
親御様が認知症などで判断能力が下がってしまった場合、ご本人に代わって契約や財産管理を行える人がいなくなってしまいます。
この「財産が動かせない状態(いわゆる財産凍結)」を解消する仕組みが、成年後見制度のうちの「法定後見」です。
しかしながら、いざ「親御様のため」と考えて利用しようとすると、思っていたものと違った、という誤解が生じやすい制度でもあります。
何ができて、何ができないのか、順を追ってご説明します。
法定後見の全体像
成年後見制度は、大きく「法定後見」と「任意後見」に分かれます。
このうち法定後見は「判断能力がすでに低下してしまった後に、家庭裁判所が支援する人(後見人など)を選任する制度」となります。
一方の任意後見は、本人が元気なうちに自分で備えておくための制度であり、利用する場面が異なります。
現在の法定後見は、判断能力の喪失の程度に応じて、以下の3つの類型に分かれています。
・後見
・補佐
・補助
類型によって、支援する人に与えられる権限の範囲が変わります。
申立てから利用開始までの大まかな流れは、次のとおりです
1. 申立てができる人を確認
法律上、申立てができるのは本人・配偶者・四親等内の親族・検察官などに限られます。身寄りのない方などの場合に、市区町村長が申し立てる場合もあります。
2. 家庭裁判所に申し立て
必要な書類(戸籍、医師の診断書、本人の財産に関する資料など)を用意し、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てを行う
法定後見の申し立ての手続きを依頼する場合、対応可能な専門家は弁護士または司法書士となります。
3. 家庭裁判所による審理
本人の判断能力をより詳しく確認するため、医師による鑑定が行われる場合があります。
4. 家庭裁判所が後見人などを選任し、後見人等による支援を開始
申立てから法定後見開始までの期間は2〜4か月程度が一つの目安とされますが、鑑定が必要な場合などはさらに時間がかかることがあります。
費用の目安としては、家庭裁判所への申立てにかかる費用(収入印紙・郵便切手など)が概ね1万5千円〜2万円程度です。
これに加えて、鑑定が行われる場合には別途の鑑定費用(数万円〜十数万円程度とされます)がかかることがあります。
法定後見で「できること」と「できないこと」
しかしながら、法定後見は何にでも対応できる万能な制度ではありません。
「できること」の例
・本人に代わって、預貯金の管理や、施設費用・生活費の支払いを行う
・本人に必要な介護サービスや施設入所の契約を結ぶ
・本人にとって不利益な契約を取り消す(類型により範囲は異なります)
「できないこと」の例
・本人のためにならない財産の使い方はできない
後見人は本人の財産を本人のために管理する立場であり、「家族のため」「相続税対策のため」といった目的で本人の財産を動かすことは原則できません。
たとえば、子や孫への生前贈与、相続税を軽くするための資産の組み替えなどは、本人の利益にならないと判断されれば通常は認められません。
・住んでいる家(居住用不動産)を売るには家庭裁判所の許可が必要
本人が現に住んでいる、または住む可能性のある不動産を売却・賃貸・取り壊しなどする場合、後見人の判断だけでは行えず、家庭裁判所の許可が必要です。
許可を得ずに売却した契約は無効とされます。「実家を売って介護費用に」という場合も、この手続きを踏むことになります。
・必ずしも家族が後見人に選ばれるとは限らない
後見人を選ぶのは家庭裁判所です。財産が多い、親族間で意見が分かれているなどの事情があると、弁護士・司法書士・社会福祉士といった専門職が選ばれる場合があります。
その場合、専門職への報酬を継続的に支払うことになります。
・途中でやめられない
現在の制度では、いったん利用を始めると、ご本人の判断能力が回復する、もしくはご本人が亡くなるまで後見を終了することができません。
「一時的に実家を売るためだけに使いたい」という使い方は想定されていませんでした。
最後の「途中でやめられない」という点については、2026年6月の民法改正によって大きく見直される部分となります。
2026年6月に成年後見制度を見直す改正民法が成立
2026年6月17日に改正民法が国会で成立し、成年後見制度が大きく見直されます。
長く指摘されてきた「使いにくさ」を改めるもので、報じられている主な内容は次のとおりです。
・事実上の終身制の見直し
必要な期間だけ利用し、家庭裁判所が認めれば途中で終了できるようになります。
・「後見」「保佐」を廃止し「補助」へ一本化
本人の状態や必要性に応じて、支援する範囲を個別に決める形となります。
・支援範囲の限定
必要な手続きだけを支援する「行為限定」の仕組みへ転換します。
・後見人の交代をしやすくするように見直し、など
ただし、この改正法はまだ「成立」した段階で「施行(実際に効力を持つこと)」はしていません。
施行は公布から2年6か月以内とされ、システム改修やルール整備を経て、2028年度中になる見込みと報じられています。
ご家族でできること/専門家に任せられること
法定後見については、「どこに相談し、誰に何を頼めるのか」が分かりにくいと言われます。
まずご家族で進められることとしては、下記のことをおすすめいたします。
・親御様の財産や契約(預金・不動産・保険・負債など)のおおまかな把握
・お住まいの自治体の相談窓口に問い合わせてみる
たとえば杉並区には、区と区社会福祉協議会が運営する「杉並区成年後見センター」があり、制度の相談や、後見人を引き受ける専門機関の紹介などを行っています。
各地の社会福祉協議会・地域包括支援センター・自治体の中核機関でも相談を受け付けています。
専門家に任せられることとしては下記のものがあります。
・家庭裁判所への申立書類そのものの作成
弁護士または司法書士が扱う業務です。書類の書き方の指南や作成の代行は、これらの専門家にご相談ください。
・不動産の名義変更(相続登記)や、後見に関連する登記
司法書士の業務となります。
・相続税・贈与税など税金の試算や申告
税理士の業務となります。
・親族間で争いがある・調停や裁判になりそう
弁護士にご相談ください。
行政書士に相談する価値
私たち行政書士は、登記・税務申告・家庭裁判所への申立書類の作成といった他の専門家の領域には踏み込みません。
一方で、制度全体の見取り図をお示しし、ご本人・ご家族にとってどの備えが向いているかを一緒に整理することができます。
また、行政書士が後見人の候補者として関与できる場合もあります。
窓口を一本化して適切な専門家へ橋渡しすることで、ご家族があちこちと別々の専門家に相談に出向くご負担を軽くすることができます。
「誰に相談すればよいか分からない」という始めの戸惑いを解消するのに、まずお役に立てればと考えております。
成年後見は、「判断能力が低下した後」に利用できる制度です。判断能力が下がる前と後とでは、選べる手段が大きく変わります。
「もっと早く動いておけばよかった」と多くの方が口にされますが、早めに一歩を踏み出すことが、その後の安心につながることをお伝えしたい思います。




